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最高投資責任者(CIO, Saxo Bank A/S)
サマリー: 債券市場のボラティリティは過去に例のない水準に達し、ウクライナ戦争が終わりを迎える兆しは見られず、各国中銀は金利をコントロールし、ついに「何かを破壊する」ことに成功しました。これは、金融当局の戦略の一部であると同時に、他のリスク要因に対処せずインフレ抑制にひたすら注力した結果でもあります。
今年3月に市場を襲った衝撃的な出来事は、パウエルFRB議長が最初に政策転換を図った後にタカ派へ傾斜した末、結局は再び金融緩和へと政策を転換する可能性があることを意味しています。市場が混乱するのは当然のことです。2023年の年末を前に、FRBがインフレ抑制に向けて75bps~100bpsの追加利上げを実施するのか、もしくは脆弱な銀行システムとその背後にあるエコシステムを守るために75bpsの利下げに動くかは、まだ分かりません。それでは、一体なぜこのような事態に陥ったのでしょうか?わずか数件の銀行破綻によって、今後の見通しは完全にリセットされてしまったのでしょうか?金融政策がリセットされる可能性はありますが、インフレの先行きは変わりないでしょう。
ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻した1998年以来、世界の中央銀行は低金利と前例のない大規模な流動性供給策を実施し、過度にレバレッジの積み上がった銀行やリスクテイカーに損失を強いることなく、過剰なリスクテイクを誘発してきました。また、リーマン・ブラザーズの破綻は世界金融危機の渦中で巨額の救済措置が相次いで講じられるという、例外的な事例となりました。
そして現在、シリコンバレー銀行(SVB)の破綻に続き、スイス国立銀行(SNB)がUBSによるクレディ・スイスの買収で巨額の流動性支援を行うなど、3月は各国の規制当局が相次いで介入に乗り出しました。また、銀行の倒産を防ぐために、預金の全額保護といった話も突然浮上しています。あらゆる金融機関が「システミック・リスク」に直面しているのでしょうか?
SVBの株価がわずか2日間で100ドルを超える水準から0になった背景には、一体何があったのでしょうか?同行は、預金によって膨らみ続ける保有債券の運用状況を全く理解していませんでした。また、規制当局であるFRBは「インフレはあくまでも一過性のもので、近い将来2%を下回る水準に回帰する」と繰り返し主張してきたのです。
しかし、インフレが一過性のものにとどまることはないようです。SVBは預金者が銀行への信頼を失い、預金引き出しが殺到するという典型的なパニックを引き起こしました。同行の顧客層は非常に偏っていましたが、米国の地銀や中小規模の銀行の多くがSVBのように残存期間の長い債券を保有するという誤った運用を行っており、預金者がより安全な預入先に逃避するリスクに晒されています。
規制当局は、満期保有目的債券(HTM)という会計上の概念に基づいて、保有債券が時価評価で取得原価をたとえ20~30%下回っていたとしても銀行が長期保有できる仕組みを容認することによって、ある意味この状況を作り出したと言えます。FRBはSVBの預金者をパニックから救済するために全額保護と新たな流動性供給措置を打ち出しましたが、それでは銀行が時価ではなく取得価額で評価される満期保有目的債券(HTM)を担保に融資を受けられる銀行タームファンディングプログラム(BTFP)さえ導入すれば、問題は解決するのでしょうか?
しかし、それでは問題は解決しないでしょう。なぜなら、もし預金者が預金を全額引き出さなかったとしてもより高い金利を得られる預け先を探すとすれば、銀行が負担する預金調達コストも上昇するからです。これまで銀行は長い間、顧客のニーズを無視し、大企業やプライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、ヘッジファンド等の資金ニーズに応えることに専念してきました。今、預金者は透明性に欠け、サービスが不足し、金利を支払わない銀行に嫌気がさしています。実際、米国の主要行であるマネーセンターバンクはFRBのFF金利が5%を大きく上回ると予想されていた先週の時点でも当座預金に金利を支払っていません。
今回の銀行危機は、銀行のソルベンシー(債務返済能力)ではなく、資金調達コストの上昇によって資金が「他に逃避」した場合に、銀行が利益を上げながら経営を維持できるか否かという問題を浮き彫りにしました。例えば、米国債6ヶ月物の利回りが4.50%ならば、大手銀行は資産に見合うだけの負債、つまり預金を維持することによって初めて経営が成り立ちます。今回のようなパニックに限らず、いかなる理由にせよ顧客の預金流出が拡大すれば銀行は保有資産を売却せざるを得なくなるのです。それが今回の危機を引き起こしたのです。
銀行危機については十分触れましたが、本稿で指摘したリスクは3月に危機が生じる前に今回の四半期予想の本来のテーマである「分断化ゲーム」にも間違いなく影響を及ぼすでしょう。これは、各国がエネルギー等の重要資源やサプライチェーン、ならびに半導体を中心とするIT技術の国際競争力の確保だけでなく、いかに欧米諸国の支配から脱却を果たし、世界秩序のリバランスを図るべく、新たな同盟関係を築く必要に迫られている現状を言い表す言葉です。
非グローバル化と呼ぶこともできますが、世界の貿易関係は依然としてグローバル化されており、単にブロック化が進んでいるに過ぎません。こうした分断化をどう舵取りするかが、今年に限らず今後数十年にわたってリターンを獲得する上で重要な鍵となるでしょう。
戦略的かつ機動的な投資を行うことは、かつてないほど重要になっています。世界が分断化され、一部で非グローバル化が進むことによって、サプライチェーンを確保するために新たな生産拠点が整備され、その結果としてグリーントランスフォーメーションのように巨額の投資をもたらす可能性もあるでしょう。一方、分断化によって一部で過剰生産による損失が生じる場合もあるかもしれません。いずれにせよ、広範かつ高度に発達したグローバルネットワークの分断化やブロック化が新たに進展する中において、「分断化ゲーム」は投資判断において極めて重要な要素となるでしょう。
ご健闘をお祈りいたします
スティーン・ヤコブセン