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チーフ・マクロ・ストラテジスト
ドナルド・J・トランプ次期大統領は、就任初日から新たなイニシアチブや政策を集中的に発表すると約束しており、1月20日の就任式後、全力でそれらに取り組むと予想されます。グローバル市場の参加者は、トランプ大統領の政策がもたらす影響や波及効果が明らかになるかなり前から、2025年第1四半期を新しい情報に敏感な状態で過ごすことになるでしょう。税制や規制緩和から財政政策に至るまで、トランプ2.0の主要なイニシアチブの多くが完全に明らかになるには2026年度までかかる可能性が高いと考えられます。
しかし、米国内もですが、とりわけ世界全体に様々な反応を引き起こす米国のより強力な政策ミックスに世界が対応していく中、市場参加者は何とか先を見通そうとし、かなり高水準のボラティリティで取引される可能性があります。
米国:トランプ氏は米国の政策をどこまで世界に押し付けることができるか
2016年の選挙結果と同様、市場は当初、トランプ氏の圧勝と共和党の上下両院支配を素直に好感し、米ドルが上昇、米債券利回りが急騰、米国株が幅広く上昇しました。しかし年末には、米債券利回りと米ドルが堅調に推移する一方で、S&P500均等加重指数で測定される株式市場全体は選挙当日の水準を約2%下回る水準となりました。これはおそらく、トランプ2.0の政策が非常に多くの政策的な矛盾や不確実性をはらんでおり、市場が結論を急ぐことを警戒しているためとみられます。FRBが12月18日のFOMC会合でタカ派的な金利見通しを示したことも株価低下の一因です。FRBは、市場が直面しているのと同じ見通しの不確実性に基づいて、大幅な追加緩和を予め約束したくはなかったのです。
表:2024年は、MSCIワールド・インデックスの70%を占める米国株を中心に、世界株式にとって特筆すべき年でした。。MSCIワールド・インデックスは今や信じ難いほど集中したインデックスで、米国の超大型株へのエクスポージャーが非常に大きく、米時価総額上位20銘柄でこのインデックスの約40%を占めています。その他の地域では、2024年の新興国市場は米ドル高によって上昇が抑えられました。しかしながら、MSCI欧州インデックスのユーロ・ベースの年間パフォーマンスはまずまずのパフォーマンスであったものの、真に出遅れたのは欧州市場でした。
トランプ氏の計画:あまりにも簡単に聞こえないか?
トランプ氏のアジェンダは、米国の再工業化を通じて、製造業の雇用を取り戻し国家安全保障(コロナ禍で明らかになったように、必要不可欠な工業サプライチェーンを含みます。)を向上させることです。同時に政策が目指しているのは、インフレ率を低く抑えながら、巨額の貿易・財政赤字や急増する債務の全体的見通しを改善することです。もちろん、これらすべてを市場の痛みを伴わないで実施することを目指しています。これらの目標は、奇跡的な生産性と真の成長の奇跡がない限り、本質的に矛盾しています。トランプ氏は、上記の政策のほとんどが達成可能であり、関税と経済成長によって実現されると期待しています。
スコット・ベッセント米財務長官候補は、トランプ大統領のアジェンダを実現するために「3-3-3計画」を掲げています。これは、財政赤字をGDPの3%に削減し(近年は2倍以上)、規制緩和と減税によって実質GDPを3%成長させ、米国の石油・ガス生産量をさらに日量300万バレル「相当」増やすことによって低インフレを実現するというものです。幸運を祈りたいところですが、成長率はこの半分以下となるでしょう。財政赤字の縮小は定義上、GDP全体の成長率を低下させるからです。過去2年間の米国の成長率が他の国々よりも上回った大半の要因は、結局のところバイデン大統領による財政赤字です。この財政出動によりコロナ禍の余波として起きると言われていた米景気後退は食い止められました。景気後退が起きそうに見えたことは一度もありませんでした。
財政面での足枷のリスク(どの程度景気抑制的になるかはマスク/ラマスワミの「DOGE(政府効率化省)」が成果を上げられるかどうかに大きく左右されます。)以外で2025年に成長鈍化を引き起こす要因としては関税の不確実性による混乱が考えられます。最後の不確定要素はAI投資ブームの状況です。2025年の米GDP成長率のコンセンサス予測は+2.1%で、リスクを考慮するとバラ色の予測と言えます。
米国債市場:現実を突きつけられる?
トランプ氏の就任式を前に、米国債利回りはイールドカーブ全体にわたって上昇しました。新大統領が粘着的なインフレと依然として非常に大きな財政赤字、さらに堅調な経済成長さえももたらすとの全般的な評価を市場がしているためです。しかし、今後1年間の集中的な発行や、米国債の返済負担の激増(大半は米国の公共債務に基づく所得に課税されない外国人に支払われます。)を考えると、米国債市場は介入なしに持ちこたえられるでしょうか。現在の予測では、2025年の米国債の返済額は差引1兆米ドルで、2024年の9,000億米ドル未満、2023年の6,500億米ドルから増加します。市場の自律的な力によって長期の米国債利回りを抑制できる唯一のシナリオは、DOGEによる大規模な財政支出削減が引き起こすひどい景気後退と、リスク資産からの逃避なのかもしれません。たとえそうなったとしても、こういった景気後退は最終的に財政赤字と債務の先行き見通しを悪化させます。FRBによる新たな量的緩和と政治的に義務付けられる財政刺激策の新たな組み合わせがすぐ後に続くのは避けられないでしょう。いずれの道をたどるにせよ、すべての場合において米名目GDPは米財務省が国債を発行する際の平均金利よりも中長期的に速く増加する必要があります。
加えて、トランプ氏のチームの一部は、米ドルが世界的な準備通貨および取引通貨として優先的に使用される状況を維持しつつ、米国債市場を長期的に安定させるための対処策について議論しています。これについては、第1四半期為替見通しで取り上げます。
米国以外の世界もある
今後を展望する際に、グローバルにみると米国だけが市場ではないこと、自国内の差し迫った問題に加えて米国の政策に対して大小様々なあらゆるグローバル・プレーヤーから反応が予想されることを覚えておくべきです。
G2あるいはGゼロの世界の中国?
トランプ大統領と習近平国家主席の下での米中関係で起こり得る結果は、米中が腰を落ち着けて世界の問題を解決することができるというトランプ氏の「G2」構想から、ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏が提唱する「Gゼロ」世界(多極化した世界をどの国も十分に統轄する力がない混沌とした状況)まで信じられないほど多様です。
トランプ氏はターゲットを絞った関税から始め、さらなる関税引き上げを約束しながら取引(ディール)をしようとするのではないでしょうか。同時に中国は、米中間の貿易・通貨政策に関する大筋合意あるいは完全な「マール・ア・ラーゴ合意」の有無にかかわらず、自国経済をリフレ化する必要があります。こういった点を含め中国に関する見解については、「中国の第1四半期見通し」におけるCharu氏の論稿をご覧ください。
欧州 - ボトムからの見通し
欧州には、世界の他の大半の地域と比較して明確な利点が一つあります。それは、欧州の中核国、少なくともユーロ圏の主要な2大中核国フランスとドイツにとって状況はすでに悪化しており、これ以上悪化するのは難しいかもしれないという点です。フランスはユーロ圏で最も脆弱な国であり、やっかいな政治的問題と悪化した債務動向のために「何とかしのいでいく」のがやっとでしょう。2025年初めの取引で、フランスの10年債利回りは史上初めてギリシャの10年債利回りを上回りました。
一方、ドイツは2月23日の選挙後にかなり改善する可能性を秘めていますが、重要な問題はその可能性をどの程度実現できるかです。新首相になる可能性が高いフリードリヒ・メルツCDU党首は、企業にかかる税金や間接費(賃金を除く)の引き下げについて、また、コロナ禍のような悲惨な緊急事態以外は大規模な財政出動を伝統的に妨げてきたドイツの「債務ブレーキ」規則の例外扱いについて、あらゆる正当な主張を行っています。
ドイツは、デジタルなどのインフラに対する国内投資が不十分であり、重工業が大半を占める同国の輸出モデルは、ロシアの安価な天然ガスが利用できなくなった後のエネルギー・コストの高騰やますます厳しくなる中国との直接的な競争、トランプによる高率関税の導入見通しといった難題に直面しています。キーワードは生産性の向上(特にエネルギー価格の引き下げ)、規制緩和、インフラへの投資拡大、イノベーションの開放であり、退任するショルツ首相のように、ドイツの古い産業モデルをきしみながら回転させ続けるのに注力することではありません。
それでも、ドイツの復活は初期段階ではうまくいかない可能性があります。というのは、選挙で第2党になりそうなAfDは主流政党にとって政治的に手を差し出せない政党とまだ考えられているため、メルツ氏は選挙後、扱い難い連立パートナーを見つける必要があるからです。SPDや緑の党と急ごしらえで組んでも、好景気の引き金となる大胆な新政策を打ち出すことはできず、中途半端な対策と緩やかな見通しの改善にとどまる可能性が高いでしょう。
欧州にとっての大きな不確実要素は、国家安全保障に関する大規模な新規投資を賄うためにユーロ圏レベルでユーロ債が発行される可能性です。最初は主に軍事目的ですが、より安価なエネルギーの長期的供給や欧州全体のより優れたインフラやサプライチェーンの確保のためにも発行される可能性があります。 ユーロ圏の指導者たちにとってマリオ・ドラギ氏の「欧州競争力の未来」(The Future of European Competitiveness)が参考になるでしょう。同書には欧州が必要とする対策の多くが概説されています。