株式の見通し:一層激しくなった市場の変動

株式の見通し:一層激しくなった市場の変動

四半期見通し 5 minutes to read
チャル・チャナナ

チーフ・インベストメント・ストラテジスト

重要なポイント:

  • 「マグニフィセント・セブン」主導を超えて:米国では2018年以来初めてS&P500の全セクターに増益が拡大する見通しです。ヘルスケア、資本財、素材、エネルギーなどのセクターは、インフラ投資やAI主導型イノベーションの恩恵を受けやすい立場にあります。さらに、欧州株は米国株よりかなり割安な水準で取引されているため、2025年は魅力的なバリュー投資の機会であり、大きな利益が期待されます。
  • トランプ大統領とFRBの政策でボラティリティが拡大:2025年の株式市場は引き続き、トランプ政権による政策変更に敏感に反応するでしょう。また、FRBの緩和サイクルが減速すれば、根強いインフレにもかかわらず成長が鈍化する可能性もあるでしょう。スタグフレーションのリスクは依然として懸念材料です。
  • 高い債券利回りに機会:米国の10年債は利回りが4.60%に達し、実質リターンが現時点でプラスであり、インカム重視の投資家にとって魅力的な選択肢になっています。さらに、コモディティや不動産、金などの実物資産は、特に財政支出が増加した場合に、インフレに対するヘッジとして効果的でしょう。

 

「マグニフィセント・セブン」以外にも増益が拡大 

米国では過去2年のほとんどの期間、株価上昇のほぼ全てを牽引してきたのは「マグニフィセント・セブン(Mag 7)」、つまりNvidiaAppleMicrosoftAlphabetAmazonMetaTeslaでした。現在はこの7社でS&P500の時価総額のほぼ30%を占めています。そのためポートフォリオがこうした銘柄や米国株全体に大きく偏り、投資の分散が制約を受けています。

しかし、これには変化が現れているようです。もはや増益は、Mag 7銘柄の多くが入るITセクターや一般消費財セクターだけに集中しているわけではありません。2025年には2018年以来初めて、S&P500の全セクターが増益になると予想されています。市場においてリターンの牽引役の中核にあるのは引き続きITですが、ヘルスケアや資本財、素材、エネルギーといったセクターでも、ポテンシャルが拡大しています。こうしたセクターは、インフラ投資やサプライチェーンの国内回帰、イノベーションが組み合わさることで、その恩恵を受けやすい立場にあります。

Source: Bloomberg and Saxo

特にヘルスケアは、強い収益期待や魅力的なバリュエーション、また人口の高齢化や医療技術の進歩といった構造的な追い風を考えると、有望と思われます。資本財と素材は、AI主導型の産業プロセスやインフラ関連プロジェクトへの継続的な投資から、恩恵を得やすい立場にあります。エネルギ-企業には、AI向け発電関連企業を含め、改めて投資家の関心が集まるでしょう。

とはいえ、ITセクターの大きさには変わりがありません。IT主導の次の行程は、現実世界へのAI導入を実証する企業が焦点になるでしょう。このセクターの今後のパフォーマンスは、熱狂的な誇大宣伝先行のバリュエーションではなく、AIが主導する効率化によって測定可能な成果を実現できるかにかかっています。

米国以外にバリュー投資の機会

ポートフォリオが米国株、特にマグニフィセント・セブンに集中しており、分散投資、または大きな成長に向けた新たな機会を求めるのであれば、米国外に目を向けることが投資家にとって得策かもしれません。欧州市場とアジア市場にはそれぞれ課題もありますが、米国に比べればはるかに大きなバリュー投資の機会があります。

欧州株は、ユーロ圏経済の低迷や関税リスク、地政学的・政治的緊張の継続に対する懸念を反映して、米国に対して大幅なディスカウントで取引されています。欧州における「セブン・ワンダーズ」、つまりHermèsNovo NordiskSiemensLVMHSAPASMLSchneider Electricのパフォーマンスは、米国のマグニフィセント・セブンほどではないとしても、市場平均を上回っています。欧州では全てのセクターにおいて、米国株に対するディスカウント率が過去の平均を上回っています。今後を見ると、MSCIヨーロッパは増益率が2024年に1.3%2025年にはIT、一般消費財、ヘルスケアが牽引役となり6.6%に加速すると予測されています。その他にも主な成長分野としては電動化、再生可能エネルギー、産業革新などがあり、こうした分野で欧州企業は世界をリードしています。

一方、アジアを見ると、中国には急反発の可能性があります。株価は魅力的であり、需要主導の財政緩和や関税を巡るトランプ政権との取引についてなんらかの兆候があれば、たちまち急上昇が始まることもあり得るでしょう。しかし、こうした機会は構造的な機会というよりは、戦術的なものにとどまります。デフレや巨額の債務、消費マインドの低迷といった根強い問題が、長期的な見通しの重しになっています。加えて、経済や市場において政府による介入の役割が大きいことが不透明性の原因になっており、有効な改革が実行されない限り、中国株は構造的な投資の観点からの魅力が低いものとなります。

一方、日本での機会はより選択的なものになります。日本銀行(BOJ)が7月に政策を転換してから、日本株は一時的に調整が入りましたが、その後、回復しています。バリュエーションは魅力が低下し、市場は全般的に、世界的な需要の低下と円高というリスクに直面しています。しかし、金利上昇の恩恵を受ける銀行業や、政府の産業政策と関連が深い工業関連企業などのセクターは、機会を求める対象になるでしょう。またコーポレートガバナンス改革も、日本株にとって、特にそれが株主還元の向上を進めている企業であれば、引き続き長期的な追い風になります。

新興市場への投資機会を求める投資家にとっては、ベトナムのような国が価値を持つかもしれません。ベトナムは、企業が貿易戦争リスクのある中国以外への分散を図る中で、グローバルサプライチェーンの再編成による恩恵を得やすい立場にあります。

トランプ2.0はワイルドカード

トランプ政権の再来には、政策的なリスクと戦術的な機会が混在しています。トランプ政権が重視する課題は以下のとおりですが、マーケットは不確実性の拡大への対応に追われることになるでしょう。

  • 関税とサプライチェーン:輸入品、特に中国製品に対する新たな関税は、サプライチェーンの混乱を引き起こし、海外生産に依存している企業ではコストが上昇する可能性があります。ITや小型株などベータ値が高いセクターは、ボラティリティが拡大することも考えられます。
  • 規制緩和:エネルギー、金融サービス、製造業などの業界では、コンプライアンス費用の低減が恩恵となり、効率性と収益性が向上する可能性があります。
  • 移民制度改革政策の厳格化は、テクノロジーやヘルスケア、建設など、合法・非合法を問わず外国人労働者に依存している業界の負担になる可能性があります。労働力不足で賃金が上昇し、インフレが加速することもあり得るでしょう。

トランプ2.0の影響を最も直接的に受けるセクターは、主に以下のものです。

  • エネルギー:トランプ大統領による「ドリル・ベイビー・ドリル」政策は、石油・ガスの国内生産拡大を目的としていますが、石油価格の上値が抑えられて収益性が損なわれる可能性もあるため、米国の石油生産者にとっての見通しは白黒つけがたいものになるかもしれません。再生可能エネルギー事業者は政策的な圧力に直面するかもしれませんが、世界的な需要と資金調達コストの低下が支えになるでしょう。
  • ヘルスケア:人口の高齢化と医療のイノベーションが引き続き強力な追い風になりますが、規制リスクが特に薬価において難題です。ロバート・F・ケネディJr.氏が保健福祉長官に任命される可能性もあり、これも不確実性の拡大要因になり得るでしょう。短期的なボラティリティがあるとしても、ファンダメンタルズは堅調であり、バリュエーションも低いことから、長期投資家にとっては魅力的なエントリーポイント(買い時)が来るかもしれません。
  • 金融:規制緩和にともない資本規制や融資規制が緩和されれば、銀行の利益が上昇すると考えられます。しかし、パフォーマンスは経済成長と金利動向次第でしょう。景気が減速すれば、融資需要が低下して利ざやが縮小するでしょう。

債券利回りの上昇が株式に与える影響は?

FRBの利下げが9月以降で100ベーシスポイントに上るにもかかわらず、長期利回りの動きはこれに逆行しています。10年物国債利回りはこれとほぼ同じだけ上昇し、4.60%前後で推移しています。米国経済は堅調であり、また共和党が圧勝した選挙結果を受けて財政リスクも高まっているため、利回りが再び5%の節目を試す可能性は十分あり得ます。

これが株式にとって重要な意味を持つのはなぜでしょうか?債券利回りが上昇すれば企業の借入コストは上昇し、利益率を圧迫して企業収益を悪化させることになります。レバレッジが大きい、あるいは金利感応度が高いセクター、例えば不動産や公益事業、小型株などは、特に大きな影響を受けます。

ただし、検討すべき主なシナリオは2つあります。

  1. 経済が好調を維持している場合企業は借入コストの上昇を、堅調な売上拡大や価格決定力で相殺できるかもしれません。この場合、利回り上昇による市場への影響は限定的なものでしょう。
  2. 経済成長が鈍化している場合FRBがさらなる金融緩和措置に踏み切る可能性があるため、利回りの上昇は長続きしないでしょう。

つまり、企業収益が悪化するには、異常に高い金利が長期にわたって続く必要があります。投資家にとっては、債券利回りの上昇にも機会があります。20202023年の期間と異なり、現在は債券の実質金利がプラスであり、リターンがインフレ率を上回っています。このため、債券はインカム重視の投資家にとって魅力的な選択肢になっています。さらに、コモディティや不動産、金などの実物資産は、トランプ政権下で財政支出が増加した場合にも、インフレに対するヘッジになるでしょう。

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