コモディティ:変動に備えた分散が必要

コモディティ:変動に備えた分散が必要

オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

重要なポイント

  • は二極化が進む世界情勢が下支えに、は需給逼迫で有利な状況に
  • 工業用金属:建設から電動化への需要シフトに伴い鉄類よりベースメタルが優勢に
  • 原油はファンダメンタルズの状況から価格下落が見込まれるが、当社の基本シナリオは引き続きレンジ取引の継続
  • 天然ガスは世界的な電力需要の急増を受けて大幅な価格上昇の可能性

2024年のコモディティ・セクターは、ブルームバーグ商品トータルリターン指数が5.4%の上昇となり、小幅ながらまずまずの成績を確保しました。年初は、中国の景気刺激策と今後の米国における利下げで見込まれる成長効果が市場の注目を集め、堅調な滑り出しとなりました。しかし、米国では経済データが引き続き好調であることに加え、根強いインフレの兆候が見られ、今後の利下げへの期待が低下したことから、米ドルと米国債利回りが急上昇し、コモディティには厳しい逆風となりました。

トランプ政権の再来により、関税や財源の裏付けのない景気刺激策、移民問題が注目を集め、インフレと財政の安定性に対する懸念が更に強まりました。こうした状況の中、貴金属が安全な避難先となり、25%のリターンを上げた一方、ソフトコモディティでは、カカオやコーヒーの主要産地で悪天候のために生産量が減少し、これを大きく上回るリターンとなりました。エネルギーや工業用金属など、経済成長や需要との相関が高いセクターは小幅な伸びとなりました。それに対して穀物は今年も豊作のため供給が過剰気味となり、二桁のマイナスとなりました。

2025年については、様々な動向や不確実性があることから、コモディティにとって厳しい取引・投資環境になることがほぼ間違いないと言えるでしょう。トランプ政権は発足とともに関税を引き上げ、それが対抗措置を誘発することで、直ちに全面的な貿易戦争に発展するでしょうか?あるいは当社が2025年第1四半期のマクロ動向見通しで紹介したように、まずは穏当な関税によって「ディール」に持ち込もうとするでしょうか?関税に加えて、市場が注視するのは中国の対応です。これは原材料に対する国内の需要増につながる可能性があり、特に建設資材よりも、電動化の恩恵を受ける原材料価格の下支えとなることが見込まれます。さらに、ドル、ドルとコモディティとの逆相関、米短期金利の方向性、利回りにも注目が集まるでしょう。

全体としてこうした動きは、経済成長への依存度が高い原油や、需給バランスに比較的余裕のある工業用金属の一部にとっては下押し要因になると思われる一方、需給の逼迫しているコモディティ、例えばコーヒーやココア、また場合によっては砂糖などのソフトコモディティ、エネルギー転換に必要な銅、アルミニウム、銀などの金属類、またとりわけ金(金利やドルへの感応度が比較的低い投資家からの需要を引きつける力が依然としてある)にとっては、引き続き下支えとなるでしょう。まとめると、当社としては、分散と根強いインフレに対するヘッジを求める投資家からの需要が引き続き集まりやすい展開を予想しています。ブルームバーグ商品指数は昨年並みのパフォーマンスが見込まれますが、関税が包括的なものにならず対象が絞られ、また為替が最終的にドル安に転じた場合、成長見通しが好転し、リスクリワード比率も上振れするでしょう。

金は二極化が進む世界情勢が下支えに。銀は需給逼迫で有利な状況

金と銀は2024年第4四半期に大幅な上昇を確保しました。金は過去最高値をたびたび更新した後、10月にピークをつけました。地政学的な情勢における不確実性の拡大により投資用金属への需要が加速しました。世界的な緊張と経済変動を受けて、投資家はより安全性の高い資産を求めるようになっており、こうした動向は当分収まる気配がみられません。

各国中央銀行は、米ドルや債券など米ドル建て資産からの分散を図るために金を積極的に買い進めており、こうした動きが間接的に銀の価格を下支えしています。加えて、世界各国、特に米国における債務の増大に対する懸念から、投資家は経済の変動に対するヘッジとして貴金属に目を向けるようになっています。しかし投資家は来年、一層の辛抱強さを求められることになるかもしれません。利回りの上昇と利下げペースの減速との綱引きに加え、ドルの浮き沈みによって、2024年以上のボラティリティが見込まれるからです。

銀については、投資主導の要因が引き続き重要な下支え役となる一方、銀価格の動向は、総需要の約55%を占める産業用途とも密接に連動しています。2024年には、産業用需要の増加が銀市場で現物需給の逼迫をもたらしました。こうした大幅な上昇に大きく寄与しているのは、電子機器や再生可能エネルギー、特に太陽光発電(ソーラー)技術などの分野です。産業用需要の持続が予想されることから、銀の需給逼迫は2025年も続くことが見込まれ、さらには上場投資信託(ETF)を通じた有価証券投資需要の増加によって、需給が一層逼迫する可能性もあります。こうした二役をこなすこと、つまり投資需要と産業需要の両立によって、銀は来年、金をアウトパフォームすることもあり得るでしょう。

金銀比価は現在88前後で推移していますが、当社としては下落を予想しており、2024年初めに見られた水準の75に向かう可能性があると考えています。その場合でも、金が当社の予想価格(若干引き下げて1オンスあたり2,900米ドル)に達していれば、銀の取引価格は1オンスあたり38米ドルを超え、いずれもキャリーコスト(CoC)を大きく上回ることになります。


工業用金属:建設から電動化への需要シフトに伴い鉄類よりベースメタルが優勢に

工業用金属のうち、当社が引き続き強気の長期見通しを維持しているものには、エネルギー転換を支えている金属類、特に銅とアルミニウムがあります。これを後押ししているのは、電力網への投資に加え、電気自動車から太陽光発電や風力タービンに至る再生可能エネルギー設備の急速な拡大です。一方、鉄鉱石や鉄鋼など、建設セクター需要への依存度が高いものは上昇の余地が限られると見ています。こうした金属は、中国における建設ブームの失速に伴い需給バランスが益々良好な水準となることから、下押し圧力が続くと思われます。

グリーンメタルの王様と言われる銅は、2024年第4四半期、堅調に推移しました。今後はトランプ関税とドル高が主な下支えとなる一方、中国では、電力網関連とEV関連の用途が住宅市場の低迷を完全に相殺する形となっており、需要はまだら模様となります。電動化の動きが世界的に勢いを増すにつれて、電力需要と送電能力の拡大が続き、銅とアルミニウムの需要を下支えしています。新たな採掘プロジェクトの余地が限られていることも相まって、これは長期的な需給逼迫と価格上昇につながるでしょう。

ただし短期的には、トランプ関税と対抗措置の影響の評価が定まるまで、おそらく投資家は忍耐を求められることになります。こうした比較的慎重なアプローチの下、当社では、銅が1月初め時点の1年先物価格を大きく上回る4.8米ドルまで上昇すると見ています。


原油はファンダメンタルズの軟化から価格下落が見込まれるが、当社の基本シナリオは引き続きレンジ取引

原油価格は2年前からレンジ相場が続いています。2024年第4四半期は取引の大部分がレンジの下限に集中していましたが、短期的な見通しとしては、同様の動きが今後数か月続くものと思われます。非OPEC+産油国からの供給増(日量約140万バレル)は、2025年の世界における需要増(IEAの推定で日量約110万バレル)を上回るペースで拡大することが見込まれており、OPECによる増産の余地はほぼ皆無になります。OPECでは、価格維持のために数年にわたり生産を抑えた結果、主要産油国のいくつかで余剰能力が拡大しています。

しかし、世界最大の輸入国である中国における需要の減速と、非OPEC+諸国による生産の拡大が価格の下押し圧力になることが見込まれ、結果的に、ロシアやイラン、ベネズエラに対する制裁強化で生産が抑制されることによる上昇リスクは限定的となります。ブレント原油は2年前からレンジ取引が続き、平均価格は76.75米ドルでした。2025年のレンジについて、当社では65~85米ドルと予想しています。

天然ガスは世界的な電力需要の急増を受けて大幅な価格上昇の可能性

天然ガスについては、米国のみならず世界各地で電力需要の拡大が続く中、来年も価格の上昇が予想されます。特に中国では、過去2年間、電力需要の増加率がGDP成長率を上回っており、天然ガスによる発電能力の急拡大につながっています。さらに天然ガスについては、石炭など旧来の燃料と再生可能エネルギーとの「中継ぎ役」という見方が拡がっています。しかし、再生可能エネルギーの発電量は天候次第で不安定であるため、天然ガスによる発電容量の増加が見込まれています。

米国ヘンリーハブ価格は、生産量の増加と需要の安定を背景に、絶対値でも欧州やアジアの価格との比較でも安値がここ数年続いてきましたが、ファンダメンタルズの変化を反映して上昇が予想されます。LNG輸出の増加(特に欧州向け)と国内の電力向け需要の増加に、同規模の増産だけで対応することは難しいと思われます。2024年は大半において取引価格が2.50米ドル以下で推移し、年間平均は2.40米ドルでしたが、2025年には値動きが上向き、平均価格が3.50米ドル近くまで押し上げられると当社では予想しています。ただし、フォワードカーブの構造上、先物や先物連動型ETFでこうした値上がりを捕捉することは非常に難しいという点に、注意する必要があります。昨年の場合、直近先物価格は44%上昇しましたが、フォワードカーブの構造から、トータルリターンは26%のマイナスになりました。つまり、天然ガス価格に対する強気な見方を最もよく捕捉できるのは、天然ガス自体ではなく、価格上昇の恩恵を受ける天然ガス関連企業への投資だということです。

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