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チーフ・インベストメント・ストラテジスト
2025年が幕を開けたところで、中国は2つの難問に直面しています。第一に、トランプ政権の再来により、米国の大幅な関税引き上げという脅威が迫っています。中国からの輸入品に対して60%の関税を課す案が示されていますが、この場合、貿易戦争が再燃しかねません。第二に、外圧を除外しても、中国は国内経済の減速に苦しんでおり、消費者マインドの低迷や不動産セクターの不振、債務問題への不安にそれが表れています。問題は、中国政府がどう対応するかです。
中国には大きく2つの選択肢があります。報復するか、あるいは緊張のエスカレーション回避を図るかです。いずれの路線にしても、株式、人民元、さらには米ドルにさえ、明確に異なる影響があります。強硬路線には短期的な鎮痛効果があるとしても、経済的な苦痛は悪化するでしょう。それに対して協力的なアプローチは市場を安定させ、長期的な成長見通しを引き上げる可能性があります。
トランプ氏の選挙公約には、中国からの輸入品に対する関税を最大で60%まで引き上げることが含まれていました。トランプ政権がこの関税を直ちに実施するのか、あるいは交渉の切り札として使うのかは、まだ不透明です。歴史的に見れば、関税が引き上げられた場合、中国の輸出、ひいてはGDPは打撃を受けることになります。この規模の関税が新たに課された場合、中国の年間GDPは1~2%縮小しかねないという予測もあります。関税が段階的に課された場合、あるいはこれより低い水準に押さえられた場合であれば、損害は対応可能なものになるかもしれません。しかし、全面的な貿易戦争になれば、既に脆弱となっている経済に対してより強い圧力が加えられることになるでしょう。
中国が自国の関税で報復しようとしても、その能力は米国との貿易不均衡により制約を受けることになります。米国はGDPに占める対中国輸出の割合が小さいのに対して、中国は対米輸出が経済の中で大きな割合を占めています。あからさまな報復関税は中国の新興産業、特に引き続き戦略的な優先課題となっているハイテク製造業や高級品の製造業に、打撃を与えるリスクがあります。中国資産にとっては、報復シナリオの中にいかなる救いのしるしがあるとしても、貿易摩擦が長引けば経済成長に大きな重しとなることから、それは短命に終わることになるでしょう。
しかし、中国としては非関税戦略に注力することもできるでしょう。例えば、レアアース(REEs)などの重要鉱物に対する輸出規制を継続することなどです。ただし、こうした措置についても、レアアースでは代替的な供給源が世界各地に出てきているなど、その効果は今までのところ限定的です。
その他に中国がほのめかしていた措置として、来年は人民元の下落を容認するという計画があります。通貨に対する統制が計画的に緩和されてきたことから、こうした措置はあり得ると思われますが、まだ明確なシグナルは現れていません。当然ながら、これは容易な選択ではありません。こうした措置は投資家の信頼を損ない、資本流出につながり、輸入コストの上昇により企業に困難な状況を引き起こしかねないからです。むしろ中国政府としては、人民元の安定化に注力して金融の安定を図るとともに、全面的な通貨戦争を回避することが、現状の経済的苦境からの回復に向けた最善の策と言えるかもしれません。それゆえ、人民元の先行きとしてより考えられる可能性は、急落ではなく緩やかな元安でしょう。
逆に、中国がエスカレーション回避を追求し、協定交渉を行った場合、人民元高に作用し、行き過ぎた米ドル高を是正できる可能性があるでしょう。ドル安の動きに加え、貿易の不透明性が低下すれば、中国資産に対する心理的改善が見込めます。しかし、エスカレーション回避のためには、中国側が貿易や通貨で譲歩する必要があります。例えば、中国が輸入について改めて確約することや、人民元の切り上げ、あるいはウクライナなど地政学的課題の解決における中国の協力などです。どの程度まで譲歩するかによって、中国の景気回復までの時間が決まることになるでしょう。
外的ショックを除いても、中国は厳しい国内情勢に直面しています。2024年後半の景気刺激策によって一時的な回復が見られたものの、経済は現在、地方財政の悪化とデフレリスクによる逆風に直面しています。不動産危機によって家計の資産が大きく目減りし、消費の減少と民間投資の低迷が起きています。これは、消費や投資よりも債務返済が優先される、バランスシート不況の典型的な兆候です。このような状況では、利下げには効果がありません。バランスシートが逼迫している場合、借入コストが低下しても需要が拡大しないからです。
しかし、ポジティブな変化も起きています。中国政府は現在、利下げよりも財政刺激策に重点を置いています。この方がより直接的に成長を促進することが可能です。主要な財政措置は、毎年3月に開催される両会(全人代および政協)で発表されるでしょう。本年上期は政策の明確化を待つという意味合いが強くなり、財政改革や米国との貿易戦争エスカレーション回避による業績回復については、下期が転機になるでしょう。
注目すべき重要指標はインフレ率です。インフレ率が上向けば需要回復のサインと考えられるので、市場は好意的に受け止めるでしょう。
改革が実行されれば、構造面から見てより明るい見通しが中国に現れるでしょう。大きな問題になっている不動産セクターには、注意が必要です。消費者セクターでは、高水準の予備的貯蓄と低迷する消費マインドに対処することが、センチメントを持続的に改善する上で極めて重要になります。そのためには、福祉や年金、医療への支出を増やし、社会的セーフティネットを強化することが必要になるでしょう。さらに、債務返済に苦しむ地方政府を支援するための包括的な債務再編計画を策定すれば、投資支出を押し上げることができるでしょう。
中国株には今もリスクがあるものの、希望がないわけではありません。MSCIチャイナ・インデックスの予想PERは現在9.7倍で、5年平均の11.62倍を大幅に下回っています。このことは、特に下期に政策の明確性が向上し、貿易の不透明感が薄れれば、上値の余地があることを示唆しています。
投資家には、昨年9月の経済対策によって2024年のMSCIチャイナが16%上昇し、4年ぶりのプラスとなったことが思い起こされるかもしれません。上昇を主導したのはIT、通信、金融で、これらのセクターは2025年に財政刺激策が強化されれば、引き続き好調を維持できるでしょう。財政措置が大規模かつ消費者重視のものであれば、生活必需品やeコマース、旅行、スポーツウェアの各セクターで反転が見られるでしょう。
中国の主な戦略セクターとしては、テクノロジー(インターネットやハードウェアの大手企業)、先進的製造業、電気自動車(EV)、再生可能エネルギーなどがあります。こうしたセクターは引き続き中国政府の長期成長戦略の重点部門であり、強力な政策支援が期待されます。
しかし、不動産低迷の影響が大きいセクターは回復に時間がかかるでしょうから、不動産やインフラ、建設セクターが直ちに回復する可能性は限られるでしょう。
さらに投資家は、地域別の資金フローにも目を配る必要があります。市場では、韓国が政治的リスクを理由にアンダーウエイトへ、インドが成長鈍化を理由にニュートラルへと変化しています。TSMCが大きく牽引してきた台湾の上昇は、現在は頭打ちとなっているようです。中国についてはわずかでも好材料があれば、中国資産に資金が戻るきっかけとなるかもしれません。
中国では現在、債券価格の上昇が続き、利回りが過去最低水準に落ち込んでいるため、人民元は強い下押し圧力にさらされています。ベンチマークとなる10年物利回りはこの1か月でほぼ40ベーシスポイント低下して1.60%を割り込み、米中の利回り格差は前例のない300ベーシスポイントまで拡がっています。これが人民元の大きな下げ圧力になっています。中国経済が直面する課題や、金利差、米ドルの強さを考えると、人民元安は今後も続くと思われます。さらに中国としては、輸出部門を支えるために人民元安を維持する必要があるかもしれません。
しかし、中国が米国との貿易協定交渉に成功すれば、人民元は上昇し、最近の元安が逆転することも考えられます。そうなれば、中国資産にとっては大きな安心材料になるとともに、米ドルには下落圧力がかかるでしょう。また、中国当局が更に大規模な景気刺激策を講じる余地も生じるでしょう。
しかし、人民元高が持続するためには、米国の景気後退と連邦準備制度理事会(FRB)による利下げの加速、さらには米国との大きな金利差を縮めるための中国経済の見通し改善が必要でしょう。2025年にこれを実現することはかなり難しいでしょう。