マクロ:選挙と現状維持がすべて

マクロ:選挙と現状維持がすべて

スティーン・ヤコブセン

最高投資責任者(CIO, Saxo Bank A/S)

サマリー:  市場は選挙を楽観視しており、債務と流動性への懸念の高まりは影を潜めています。2024年の選挙はすぐそこまで迫っていますが、経済のファンダメンタルズと債務問題により、慎重な投資を余儀なくされるでしょう。


選挙は2024年も引き続き重要なテーマ

2024年の米国選挙を控え、市場はこの単一の要因に集中しているように見え、他の潜在的なシナリオを目立たなくしています。当社は、本質的な不確実性を認識しつつも、選挙が第1四半期に支配的な役割を果たし、第2四半期にも影響を及ぼす可能性があると予想しました。

これは市場を相手にすることではなく、投資家心理を動かす物語を認識することでした。弱含みの兆候があれば利下げに踏み切る構えの中央銀行や、財政的思慮を顧みず財政支出に意欲的な政治家が、 「予想を上回る」 データが得られる環境を作り出し、選挙年の楽観論に拍車をかけました。

不健全な額の債務

米国政府が2022年以降、3兆ドルの国債を発行しても、名目GDP成長率は2兆4000億ドルにとどまりましたが、それでも良好な経済データとの認識は維持されました。この戦略により公式な景気後退は予防されましたが、健全で長期的な成長、経済拡大にはつながりませんでした。

米国経済
100に指数化された債務対経済成長

こうした見方をさらに助長したのは、基本的に政府のATMである、FRBのリバースレポ・ファシリティ (RRF) が大幅に引き出されたことです。このファシリティは、余分な現金のための一時的な 「駐車場」 と考えてください。FRBはこの現金を、後で買い戻すことを約束した証券を売却することで吸収します。この現金がファシリティから出て銀行システムに再び入ると、融資やレバレッジによって増殖され、本質的に経済の歯車に油を注ぐことになります。

RRFは2023年初めに2兆5000億ドルでピークを迎えましたが、その後5000億ドル未満に縮小しています。これにより、米国の金融システムに2兆ドルもの新たな流動性が注入され、株式市場のアニマルスピリッツを支え、暗号資産は最高値を更新しました。

市場は流動性リスクを認識しているでしょうか?

しかしながら、水面下では別のストーリーが展開しています。リスクテイクを促すための過剰な紙幣印刷と流通は、10月のS&P 500の市場安値の時期と一致しています。RRF残高が大幅に減少し、FRBが政策金利を引き下げる方向に舵を切ったことで、株価は2023年10月後半から一直線に上昇しました。現在のペースでは、RRF残高は6月までに枯渇し、その刺激効果は失われます。

さらに、世界の中央銀行は第2四半期に全体の流動性を削減しています。 当社は、累積債務、高い実質金利、非生産的なグリーンセクター投資、中小銀行の借り換えニーズ、及び商業用不動産の過剰が、当面の経済成長を全体として鈍化させる結果を予想しています。

市場は、利下げについて当初は過度に楽観視していましたが、FRBの見通しを受け入れつつあります。しかしながら、市場には逆に2024年に利下げがないと予想している向きもあります。当社は、市場予想に比べて変化のペースが遅いことを認めつつも、利下げの可能性が高いと考えています。市場は複雑な情報を効果的に処理するのに苦労することが多いことを忘れないでください。

投資配分

当社の第1四半期の投資戦略では、株式、債券、商品、現金・オルタナティブの4つの主要資産クラスにそれぞれ25%ずつバランスよく配分しました。この分散化は当社にとって有益でしたが、第2四半期に移行するにあたり、バリュエーション懸念から、株式エクスポージャーを削減することで配分を調整しています。

2024年選挙の潜在的な影響力を認める一方で、アメリカの投資銀行家故J.P.モルガンが、どうやって世界一の富豪になったのかと聞かれたときの有名な答えに従う時が来たのかもしれません。「売るのが早すぎて大儲けしました。」。

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