マクロ:砂上の経済

Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  2024年も第3四半期に入りますが、経済成長は引き続き堅調で、防衛、AI、肥満治療薬製造などのセクターは活況を呈し、資産価格は史上最高水準にあります。しかし、米国の持続不可能なレベルの財政支出、世界を取り巻く地政学的ショック、見通しの暗い人口動向といった要因が、脆くて弱い砂の上に構築された、今のこの経済を破壊する可能性はないのでしょうか。現在の状況をふまえ本四半期予想では、欧州株式と短期優良債券の可能性やエネルギー・コモディティが注目される理由、さらに為替相場の注目点などについての、サクソグループのアナリストチームの見解をお読みいただけます。


我々はきれいな砂の城を作り上げた

パンデミック以降の米国の過剰な財政政策と、AI、防衛、半導体、肥満治療薬製造への強力な投資の組み合わせが、驚くほど回復力のある経済成長を生み出しました。米国の経済成長は引き続き堅調で、趨勢的成長前後の水準にあり、金融政策金利の積極的な引き上げにもかかわらず、信用スプレッドの低さに反映された歴史的に緩やかな金融環境が続いています。欧米の労働市場は冷え込んでいるものの、パンデミック前と同様に依然として逼迫しています。資産価格も史上最高水準にあり、豊かさと安心感をもたらしています。

欧州では、ウクライナ戦争に起因するエネルギーショックとインフレショックから回復し、経済はようやく成長局面に入りつつあります。中国は経済成長を強化し、不動産セクターの課題に対処するため、複数の支援策を追加しています。欧米のインフレは、当初考えられていたよりも高い水準で持続していることが判明しました。しかし、インフレ率の急上昇で失われた実質所得の一部を人々が取り戻すような水準にまで緩和されており、所得主導の経済成長を生み出しています。言い換えれば、第3四半期に入った中でのゴルディロックス・シナリオです。

2車線経済の政策パラドックス

経済は2020年初頭以来驚きに満ちており、昨年の景気後退がなかったことが最大の驚きだったという点では見解が一致しています。今年、大きなサプライズとなったのは、インフレ率が予想されたほど急速に下がらなかったことであり、中央銀行は現在のインフレのダイナミクスを完全には理解していないという考えを実証するものとなりました。FRBはインフレの方向性を再び見誤ったことで、より慎重になっていると思われるため、世界経済が大幅に減速しない限り、今年後半まで利下げは行われないと我々はみています。

指標を見ると、不動産や自動車製造などの一部の分野は高金利で苦戦しているものの、防衛、半導体、AI、肥満治療薬製造などは好況を呈しており、これらの分野での設備投資は、パンデミックまでの10年間よりも急速に伸びています。この「2車線経済」が金融政策を複雑にしています。なぜなら、経済の弱い部分を助けることは、よりコストのかかるインフレの長期化を招く可能性があるためです。

砂の城は小さな波にさえも弱い 

砂の城は作るのは楽しいですが、本質的に壊れやすく、世界経済についても同じことがいえます。経済成長は安定を保つでしょうが、この先、砂上の経済を破壊する可能性のある要因がいくつか存在します。

米国の財政支出は長期的には持続可能ではなく、現在の国債利回りは債務に関連する政府支出を増加させ、福祉やインフラのための財源を削っています。米国政府は、経済を沈静化させる、もしくはインフレを長期的に高止まりさせるリスクに対処する必要があります。

ウクライナの戦争は、地政学が経済に予期せぬ衝撃を与える可能性があり、この種のリスクは長期化することを示しました。欧州に限らず、製造業の友好国への海外移転や戦争経済の進展など、その他の動向もインフレ上昇圧力となります。肥満治療薬の増加などによる医療費の膨張、予測不可能な天候パターンの増加、高齢化の進展による悲観的な人口動向なども、砂上の経済を今のうちに享受すべきことを示唆しています。

投資配分

上記のマクロ分析は、米大統領選を控えた重要な第4四半期を前に、短期的には明るい見通しを示唆しています。加えて、乱高下が穏やかな金融環境で、インフレ率が2%のインフレ目標を上回っている時期は、歴史的には資産クラスのリターン、特に株式、コモディティ、社債にとってはプラスでした。

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