サマリー: 2022年の国民議会選挙での与党過半数割れを受け、マクロン仏大統領は2023年に辞任します。それにより極右政党のルペン氏にエリゼ宮の扉が開かれます。
2022年5月に政権2期目を迎えたエマニュエル・マクロン大統領は、フランスの改革実行を主導することができると信じていました。しかし、それは2022年6月の国民議会選挙で大統領与党が過半数割れとなり、マクロン大統領が妥協を余儀なくされる前のことです。言うまでもなく、これは彼にとって予想外の状況です。左派連合「新人民連合環境・社会(NUPES)」やマリーヌ・ルペン氏率いる極右政党「国民連合」の強い反対を前に、政府は憲法49条3項を発動して、主要法案と2023年度予算を政令によって強行採決する以外に選択肢がないのです。
とはいえ、議会採決を経ないことは民主主義国家の統治方法としてはありえないことです。少なくとも長期的に続くことはありません。マクロン氏は当初、解散総選挙を準備していました。世論調査によると、それは宙吊り議会(hung parliament)につながるため、解決策になりません。そのため、マクロン氏は、今後4年間はレームダックとなり、公約である年金改革を実行することは出来ないことを理解しています。
フランス民主主義体制の創始者であるシャルル・ド・ゴール元大統領の1946年、1969年の例にならい、マクロン大統領は予想外にも2023年初頭の辞任を決意します。テレビ演説で、野党の絶対阻止の立場を批判し、政界引退を表明します。フランスが新たな大統領選挙を控える中、マクロン氏は長年の夢であったスタートアップ企業設立を実現させることを決意します。ただ、内心では政権復帰を諦めてはいません。1958年のドゴール元大統領のように、フランスが政治的混乱に陥った際に、支持者やサイレント・マジョリティが復帰を要請してくれることを期待しているのです。マクロン氏の辞任は、極右政党のルペン氏にエリゼ宮の扉を開き、フランス全土および国外において、EUのプロジェクトとその不安定な制度基盤を新たな存亡の危機に直面させることになります。
市場へのインパクト: 危機感の高まりを背景に、新政権の下でより広範な反ポピュリズムが台頭 - フランスのOAT(統合型長期国債)の対ドイツ国債との利回り格差は縮小します。